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どせいたんさき。

ナスダヨー

天体カタログ間で等級を比較する

Linux Octave 天文

目的

異なる天体カタログの間で星の明るさを比較したい.より正確には異なるカタログの間での等級の変換式を求めたい.

ここでは Tycho-2 カタログと USNO-B1.0 カタログの間での変換を求める.Tycho-2 カタログは Hipparcos 衛星による観測をベースに拡張したカタログで,全天に渡って高い位置精度と測光精度を保証しているが,掲載されている星は明るい天体に限られている.USNO-B1.0 カタログは写真乾板による観測データを多数組み合わせて,比較的暗い星 ($V\sim 21\,{\rm mag.}$) まで明るさと位置の精度が保証されたカタログである.

Tycho-2 カタログに記載されている等級は Tycho-B ($B_T$), Tycho-V ($V_T$) 等級で,比較的 Johnson システムと親和性があり,Johnson 等級との変換係数もオフィシャルに与えられている.しかしながら,掲載されている星の数が少ないため必ずしも活用できるわけではない.USNO-B1.0 カタログは十分な星の数を含んでいるが,星の等級が独自のシステムによって測定されているため,明るさのキャリブレーションには使いにくい.ここでは Tycho-2 カタログと USNO-B1.0 カタログのクロスマッチを行って USNO-B1.0 の等級 ($B_1, R_1$) から Johnson システムの等級 ($B,V$) に換算するための式を求める手法をまとめる.

手順

データの取得

天文用カタログデータベースサイト VizieR ではカタログのクロスマッチサービスも提供している.*1位置情報が正しく記載されているカタログならこのサービスを用いてカタログのクロスマッチングができる.

f:id:xr0038:20160724000523p:plain:w480

適当に情報を埋める.同一天体だとみなす半径は $5''$ に設定,カタログ全体をマッチさせると相当な時間がかかるので今回は適当な座標 (13:51:04, -17:22:30) の周囲 $15^\circ$ でマッチングを実行した.

f:id:xr0038:20160724000744p:plain:w480

マッチングに成功したら Get result ボタンからクロスマッチ済みのカタログを csv ファイルで保存する.ここでは tycho-usnob.csv とする.なお今回マッチさせたカタログには 22753 レコードのデータが記載されていた.

保存したファイルにはカタログの情報がフルで含まれている.使いづらいので一部分だけ抜き出す.

awk -F, '{if (NR==1) {print $3,$4,$26,$27,$8,$10,$9,$11} \
          else {print $3,$4,$26+0,$27+0,$8+0,$10+0,$9+0,$11+0}}' tycho-usnob.csv \
   | sed '1s/^/# /' > tycho-usnob.mag

# 各カラムの定義は以下の通り
# 1: RAJ2000, RA 座標
# 2: DEJ2000, Dec 座標
# 3: BTmag, Tycho-B magnitude
# 4: VTmag, Tycho-V magnitude
# 5: Bmag1, USNO-B1.0 B1 magnitude
# 6: Bmag2, USNO-B1.0 B2 magnitude
# 7: Rmag1, USNO-B1.0 R1 magnitude
# 8: Rmag2, USNO-B1.0 R2 magnitude

計算

計算の操作は Octave でおこなった.

tbl = load('./tycho-usnob.mag'); # データの読み出し

Tycho-2 カタログから Johnson システムへの変換

Tycho-2 カタログの測光値から Johnson 等級への変換には公式に与えられている変換式を用いいる.

$$ \left\{\begin{align} V &= V_T - 0.090(B_T-V_T) \\ B-V &= 0.850(B_T-V_T) \end{align}\right. $$

Bt = tbl(:,3); Vt = tbl(:,4);
V = Vt - 0.090*(Bt-Vt);
B = 0.850*(Bt-Vt) + V;

USNO-B1.0 カタログと Johnson システムの比較

USNO-B1.0 カタログの $B_1$ 等級が Johnson-V とどの程度違うのかを可視化してみる.

B1 = tbl(:,5); R1 = tbl(:,7);
plot(B1-R1,V-B1,'.');
xlim([-1,3]); ylim([-3.5,3.0]);
xlabel('B1-R1','fontsize',16); ylabel('V-B1','fontsize',16)

f:id:xr0038:20160724004924p:plain:w480

$V-B_1$ の値が $B_1-R_1$ の値によって最大で 3 等程度変化していることがわかる.図の中心付近には大きなばらつきがある.ばらつきの原因としては 1. 変光性である,2. 輝線天体である,3. データのクオリティが低い,といった可能性がある.一方で,これらのデータを排除すれば $-1 \le B_1-R_1 \le 3$ 程度の範囲で精度の良い関係式を得られると期待できる.ここでは適当に bin を切ってメディアン値を用いることで外れ値の影響を抑える.

BR = B1-R1;
bin = linspace(-1,3,41)';
[n, idx] = histc(BR(-1<BR&BR<3),bin);
tmp = [idx [BR V-B1](-1<BR&BR<3,:)];
for n=1:40; m=data(:,1)==n; VB1(n,1) = median(tmp(m,3)); endfor

bx = [bin(1:end-1)+bin(2:end)]/2;
plot(B1-R1,V-B1,'.',bx, VB1,'1o');
xlim([-1,3]); ylim([-3.5,3.0]);
xlabel('B1-R1','fontsize',16); ylabel('V-B1','fontsize',16)

f:id:xr0038:20160724010113p:plain:w480

適当に多項式で近似する.

x = linspace(-1,3,1e3)';
plot(data(:,2), data(:,3),'.',bx,VB1,'o',x, polyval(polyfit(bx,VB1,8),bx),'.-');
xlim([-1,3]); ylim([-3.5,3.0]);
xlabel('B1-R1','fontsize',16); ylabel('V-B1','fontsize',16)

f:id:xr0038:20160724010441p:plain:w480

f:id:xr0038:20160724010642p:plain:w480

これより $V-B_1$ カラーの近似式は $x=B_1-R_1$ として以下のように得られる.

$$ \begin{align} V-B_1 = 0.0076466 x^{8} &-0.0629657 x^{7} +0.1615142 x^{6} -0.0666599 x^{5} \\ -0.2432007 x^{4} &+0.1555780 x^{3} +0.1826526 x^{2} -0.7773718 x +0.0068255 \end{align} $$

ただしこの近似式が成立するのは $-1 \le B_1-R_1 \le 3$ の範囲のみである.

参考資料

*1:つい最近まで知らなかった……